IPCC第1次評価報告書(FAR)概要
第1次評価報告書(First Assessment Report 1990)は、1988年11月にジュネーブにて開催された「IPCC第1回総会」にて作成が決定し、その後、世界中の第一線の研究者が寄与した地球温暖化問題に関する研究成果についての評価を行い、それらの結果をまとめた報告書として1990年に発表された。
同報告書は、「人為起源の温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響をおよぼす気候変化が生じるおそれがある」という警告を発したが、世界の第一線の研究者の手によるこの警告は、社会的に非常に注目され、後に、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の採択(1992年)および発効(1994年)を強力に後押しすることとなり、世界の地球温暖化防止政策の推進に多大な影響を及ぼすこととなった。
なお、1992年には、第1次評価報告書をベースとして、その完成(1990年)以降の科学的知見を追加した「補足報告書」を発表している。
構成
- 第1作業部会報告: 気候変化の科学的評価 (Scientific Assessment of Climate Change) - WG I
- 第2作業部会報告: 気候変化の影響評価 (Impacts Assessment of Climate Change) - WG II
- 第3作業部会報告: IPCC対応戦略 (The IPCC Response Strategies) - WG III
- 1992年補足報告書
- 気候変化: IPCC1990&1992評価 第一次評価大要とSPM
- Climate Change: The IPCC 1990 and 1992 Assessments (IPCC First Assessment Overview and SPM and 1992 IPCC Supplement)
主な内容
- 人間活動に伴う排出によって、温室効果ガス(CO2、メタン、フロン、一酸化二窒素)の大気中の濃度は確実に増加(産業革命前と比べ、二酸化炭素換算で50%増加)しており、このため、地球上の温室効果が増大している。
- モデル研究、観測及び感度解析によると、CO2倍増時の全球平均地上気温の感度は1.5〜4.5℃の間であると予想される。
- 長寿命の温室効果ガスは、排出量を削減しても大気中の濃度変化への効果が序々にしかあらわれない。
- 過去100年間に、全球平均地上気温は0.3〜0.6℃上昇し、海面は10〜20cm上昇した。
- (特段の対策がとられない場合)、21世紀末までに、全球平均地上気温は約1〜3℃の上昇[10年間で約0.3℃(0.2〜0.5℃)、2025年までに約1℃、21世紀末までに3℃の上昇] が予測される。
- (特段の対策がとられない場合)、21世紀末までに、全球平均海面水位は35〜65cm上昇[10年間に約6cm(3〜10cm)の上昇が起こり、2030年までに約20cm、21世紀末までに65cm(最大1m)の上昇]が予測される。
(但し)
- IPCC(我々)の気候変化に関する知見は十分とは言えず、気候変化の時期、規模、地域パターンを中心としたその予測には多くの不確実性がある。
- 温室効果が強められていることを観測により明確に検出することは、向こう10年間内外ではできそうもない。